人をつなぐ街と海|湘南スタイル  23 東宝ハウス湘南

大きな歓声がわき上がる鎌倉・由比ガ浜。波際の網の中では、大小の魚が太陽の光にきらめいて水飛沫を上げる。その様子に目を細めるのが、鎌倉唯一の地曳網の網元である加藤彰一さんだ。江戸時代から三百年余り続く10代目。小柄ながらも潮と日に灼けた屈強な体つきに、白いあごひげ。手練れた漁師の風体だが、一風変わった経歴を持つ。物心ついたころから「朝早くに叩き起こされて、漁を手伝わされてきた」と言う加藤さん。「恐ろしいものでね。小さい時からやっていると、それが当たり前だと思うわけ」。だが、小学校に入学して「外の世界」を知るようになると、「一生、地曳網をやっていたら、自分の人生これで終わり」と子供ながら疑心が生まれた。同級生の父親が欧州航路の船長だった。帰国するとスライド写真の上映会をしてくれた。暗闇に映るヨーロッパの街や港の風景に、「いつも見ている海の向こうに、こんな世界があるのか」と強いあこがれを抱くように。「お前がいないと、うちは食っていけない」という父親の言葉に従い家業を手伝いながら、高校、大学へと進学。折しも海運不況で船乗りの道はあきらめたが、「商社なら海外へ仕事で行ける」という恩師の言葉で大手商社へ。父親も「お前の好きなようにやってこい」と背中を押してくれた。その時、父親も若いころ同じ思いを抱いていたことを知った。一線の商社マンとして40年にわたり活躍。念願の海外駐在中に、現地の人々が日本を訪れた際に体験した地曳網の思い出を、嬉々と語ることに驚いた。あの地曳網が笑顔を生む……。5年前、帰郷を機に再び海へ。観光客のために地曳網を復活させた。「皆で心を合わせてやるところに醍醐味がある。自分達で引っ張ってきたら、魚がバシャバシャやっている。もう、それだけで高揚感がある。特に子供達はね」。今の加藤さんには、海の向こうに何が見えるのだろうか。

Back Number