
鎌倉・腰越、江ノ電が通る目抜通りから、ほどよく離れた所に小さなそば屋がある。昼時には、店の外に並ぶ客を目にする評判の店だ。店主の宮内貫(かん)さんは鎌倉育ち、高校時代の先輩の影響もあってサーフィンにどっぷりとはまった。卒業後はさらに波乗りが上手くなりたくて、国内外の海をサーフボードとともに飛び回った。だが、22歳になり、大学に進学した仲間が就職をするようになり、自分の進路を真剣に考えた。選んだのは、そば職人の道。「幼少のころより料理に興味がありました。アルバイトも飲食ばかりでしたね」と宮内さん。縁あって、地元のそば店に就職。10年近く厳しい修行を重ねてきたが、結婚もして、独立を夢見るように。ある日、旅先で一人のサーファーに出会う。そば粉を輸入するそばの目利きだった。関西のとあるそば屋をすすめられて、宮内さんは足を運んだ。そばをたぐって、その素朴なうまさに驚いた。以後、足しげく通って研鑽をして納得がいく味を追求。数年後に念願の店を構えた。そば粉の生産者と客とをつなげるのが自分の役目と、店名は「結」(ゆい)に決めた。「『サーファーはお腹いっぱいになればいいんだろ』」と言われるのが悔しくて。だから、本物の味を湘南の人に食べていただきたい」と奮起。努力の甲斐があって、地元でも指折りの人気店になった。「体が動く限りそばを打ち続け、仲間たちが集うような店を長く続けられたら、幸せですね」。宮内さんは、これからもそばを通して人と人を結んでいく。
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